【理事長メッセージ】逆風下を生き抜く次世代のリーダーたちへ(後)

リーダーというのはある種、時にリスクを背負っても大胆にならなければなりません。それもただ大胆なだけではなく、思慮深い判断もできなければなりません。私は、カルロス・ゴーンのことを「大胆でかつ思慮深い」と称していますが、思慮深さと大胆さはまさにリーダーにとって非常に重要な素養です。

ところで、そういう思慮深さは1人で熟慮していくよりも、業界をこえてさまざまな人と議論したほうがより確度を高くすることができます。このことは、さまざまな人種・性別・年齢の人で構成される人的ネットワークを構築する必要があるということです。

旧来型の日本的企業カルチャーの問題点

70~80年代、日本企業は“Japan as No.1”といわれるほど世界を席巻していましたが、バブルの崩壊によって弱くなってしまいました。その理由のひとつに日本的な企業カルチャーがあると、私は思っています。それを一言でいうならば、日本人だけ、かつ男性中心ということです。また、会社によっては、その会社にふさわしい偏差値の高い有名大学の卒業生に占められているということもあります。つまり、多様性がないということです。

この多様性の欠如が、日本のグローバル化を邪魔しているような気がします。日本人、しかも同じような経歴、同じような考え方の男性ばかりで議論しているのですから、どうしても排他的になってしまいます。純粋に自分たちと異なる考え方を拒否してしまうのです。

対して、例えばアマゾンやグーグル、フェイスブックといったいわゆるシリコンバレーの会社というのは、経営者がインド人であったり、女性であったりと実に多様な人たちが集まっています。おそらく、日本企業は世界のなかでも特に多様性が欠けているのではないでしょうか。

他を知ることで、固定概念を崩す

日産リバイバルプランを通じて得られた経験

多様性の欠如は、経営危機に陥った会社の共通点です。日産でいえば、日産リバイバルプラン前は、基本的に日産に勤務する社員同士でしか話をしていませんでした。もちろん営業や販売会社など所属は違いますが、基本的には日産カルチャー内の人たちです。

そこにカルロス・ゴーンを含め三十数人のフランス人が加わったことで、日産のカルチャーは大きく変わり始めました。組織のなかに日産とは違う考えの人たちが加わることで、さまざまな化学反応が起きたのです。

その化学反応は組織だけでなく、私自身のなかでも起こりました。なぜなら、彼ら外部から来た人たちと話してみると、彼らは私がそれまで信じていたものとは違うものを信じていたからです。この経験は、私の多様性に対する共感力を相当上げました。

インドネシア時代に培った共感力

振り返ってみると、当時の多様性に対する私の共感力は、日産のなかでは高いほうだったような気がします。それは、おそらくバブル崩壊で凍結されたインドネシア参入計画を、たった1人で復活させようと現地に駐在した経験があるからでしょう。

インドネシアの事務所では日本人は私1人ですから、必然的に現地スタッフに仕事を任せることになります。そして、いざ任せてみると、彼らは真面目で尊敬したくなるくらいの仕事をします。そのうちに少しずつ日本人が特別という感覚が薄れていき、いつしか外国人と働くことに違和感がなくなりました。この体験があったからこそ、私はルノー傘下となり、フランス人と一緒に働くことになっても、それほど抵抗を感じなかったのです。

こうした多様性に対する共感力はとても重要です。しかし、企業内研修で多様性に対する共感力を上げるのは容易なことではありません。なぜなら、企業内研修では同じ企業文化の人間しかおらず、新たな気づきを得にくいからです。そこで、ものづくりだけでなく、ファイナンス、商業、コンサルティングなどさまざまな業種、企業のビジネスパーソンが集まって一緒になって語り合えるような研修ができないかと考えました。それが『逆風下の変革リーダーシップ養成講座』です。

実践を通じて身につける「多様性」と「共感力」

『逆風下の変革リーダーシップ養成講座』では、20以上の会社から30人が集まり、4つか5つのテーブルに分かれて議論します。日産財団が主催ですから、日産の社員も参加しますが、日産からの参加は最大5人までに制限しています。これは多様性を担保するためです。

講座で議論するのはどの業界にも共通するマネジメントやリーダーシップについてです。なぜなら、これらのテーマは業種・企業をこえて議論できるからです。議論をしていると、やがてそれぞれがまったく異なるリーダーシップ論やマネジメント論を考えていることに気づき始めます。トップダウンで指示をされるということに対してまったく抵抗がない会社がある一方で、トップの指示といえどもおかしいと思えば必ずトップに対して提言できる会社もあるからです。

10年、15年、20年と、1つの会社で仕事をしてきたビジネスパーソンは自分たちの会社のやり方しか知りませんから、例えばトップダウンの会社の多くは、トップの指示だからとそのとおりに仕事をすることに何の疑問もいだきません。しかし、議論を通して他社のリーダーシップなりマネジメントを知ると、それまで信じていた固定概念がバリバリと崩れていきます。これは、さまざま業種・会社のビジネスパーソンが集まるからこそ得られる気づきです。そして、この固定概念を壊すことこそが『逆風下の変革リーダーシップ養成講座』の目的のひとつでもあります。

裸の王様にならないために。多様な人的ネットワークを構築する

日本にはすばらしいリーダーがたくさんいます。ですが、なかには途中で間違えてしまうリーダーもいます。それは、途中から「裸の王様」になってしまうからです。部下が真実を話さないということもありますが、やはり自分の意見が正しいかどうかをチェックする人的ネットワークを持っていないことも影響しているように思えます。

自分で学ぶことは大切です。ですが、それと同じくらい情報を共有するネットワークを持ち、意識的にさまざまな立場の人たちの意見を聞くようにすることも大切です。いろいろな業界・会社のビジネスパーソンと情報を共有し、意見交換し、情報を蓄え、磨いていく。意見交換では当然反論もされるわけで、自分も途中で意見を変えてしまうこともあるかもしれません。でも、それが結果的にリーダーシップを育てていくのです。

『カルロス・ゴーンの経営論』(太田正孝、池上重輔編集、公益財団法人日産財団監修、日本経済新聞出版社)のなかでも少し触れているのですが、カルロス・ゴーンは意思決定する数カ月前に、周囲にぽろっとしゃべることがあります。反応を見るんですね。実は、私も同じことをしています。自分が考えていることが共感を呼ぶか、本質的か、大儀があるか、あるいは賛同してくれなくても理に適っているかを、意思決定する前にチェックするのです。

この考えを突き詰めていくと、1人のリーダーが自分で何もかもやって、それによって成果を上げるというカリスマ型リーダーシップの時代から、1人のリーダーがたくさんのネットワークを持ち、そのなかで情報共有しながら成果を上げていく共感型リーダーシップというように、リーダーシップのあり方が変わってきているのではないかと思えてきます。

カリスマ型リーダーの時代から共感型リーダーの時代へ

日本は、松下幸之助や本田宗一郎、盛田昭夫、井深大など、1人のカリスマリーダーが先見的な経営方針を打ち出すことがすばらしいという文化があります。もちろん、そういうリーダーも必要です。ですが、そういうカリスマリーダーを目指しても、全員がなれるわけではありません。

さきほどお話ししたように、現代はカリスマ型リーダーから共感型リーダーへとリーダーシップのあり方が変わってきています。「共感型リーダー」とはビジョンを示して、それに共感賛同する人を集め、目標に向かって成果を上げることですが、その前提には打ち出したビジョンに人を共感させる力がなければなりません。

人を共感させるには、どれだけ世界の動きに即応したビジョンを打ち出せているか、このことに尽きます。つまり、リーダーは相当高いアンテナを持っていなければならないということです。そのためにも、多様な人的ネットワークの構築は必須といえます。日産のCOO時代、私は必ず週に6人、社外の人と面談をするように心がけていました。

一方で、人的ネットワークの構築は容易なことではありません。そこで、『逆風下の変革リーダーシップ養成講座』では卒業生のためのアルムナイ(OG/OBが集まる会、組織)を組織化し、交流が図れるようにしています。これも、『逆風下の変革リーダーシップ養成講座』の強みのひとつといえるでしょう。

この講座を通じて、1人でも多くの「逆風下を生き抜くリーダー」が育っていってほしいと思います。

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公益財団法人 日産財団 理事長 志賀 俊之
日産自動車取締役・日産財団理事長・産業革新機構代表取締役会長CEO
大阪府立大学経済学部卒業。日産自動車株式会社入社。アジア大洋州事業本部アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長、企画室長アライアンス推進室長、常務執行役員、代表取締役最高執行責任者などを歴任。

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