【理事長メッセージ】逆風下を生き抜く次世代のリーダーたちへ(前)

日産財団が実施する「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」。変化の激しい経営環境下で、変革を主導する次世代のリーダーを育成するためのプログラムです。今回は、このプログラムを立ち上げたきっかけと理念についてお話します。

カルロス・ゴーンとの出会いとリーダーシップ・ジャーニー

カルロス・ゴーンと出会っていなければ、おそらく私は部長クラス止まりで、今のような社会的地位を得ることもなかったでしょうし、ここまで成長することもできなかったでしょう。ここまで自分なりにリーダーシップについて長い時間をかけて少しずつ学んできました。私はこの気づき、目覚め、そして自分に足りないものを補いながらリーダーシップが何かを学ぶ過程を「リーダーシップ・ジャーニー」と呼んでいます。そして、私にとっての「リーダーシップ・ジャーニー」は、まさにカルロス・ゴーンと十数年間仕事をしてきたなかでの学びなのです。

「リーダーシップ」とは、信頼をベースに人を動かす力である

それでは、リーダーシップとは何なのでしょうか?

日本人はよく「リーダータイプではないから」「人の上に立つのは好きではないから」などと言いますが、家庭ではお父さんやお母さんがその役割に相応しいリーダーシップを発揮しています。それがもう少し集団が大きくなると、地域のコミュニティや会社の1つの部署となったり、さらに大きくなって会社全体や社会全体となったりするわけです。

このように大小さまざまな集団がありますが、その単位がどのように変わろうと、集団のなかで生活をしている限り、誰かが“役割として”リーダーシップを発揮する必要があります。例えば、町内会やPTAの委員などです。町内会にしても、PTAにしても組織がある以上、誰かがこれらの役割を果たさなければなりません。そうして嫌々ながらでもリーダーとしての役割を果たしていくうちに、いつしかリーダーシップを発揮していた。そういうこともあります。

私の場合も、周りが私をリーダーだと認めて動いてくれたおかげで、結果的に私がリーダーシップを発揮できたような気がします。周囲の人間が動いてくれなければ、自分でいくらリーダーだと言っても、リーダーシップなど発揮することはできないでしょう。

結局、リーダーシップとは何かと言えば、1つの目標に向かってチーム一丸となって仕事をして成果を出すことではないかと思うのです。なぜなら、1人ではリーダーもリーダーシップもないからです。そう考えると、リーダーシップの根底にあるのは、相手を信頼して、信頼をベースに人を動かす力なのではないかと思えてきます。一緒になって目標に向かうから成果が出る、その結果を見てあの人はリーダーシップがある、というわけです。

リーダーシップは先天的な才能ではなく、学んで身につける技術である

リーダーシップをこのように考えるようになったのも、カルロス・ゴーンという1人のリーダーによって企業がこれだけ変わるんだ、ということを目の当たりにしてきたからです。正直言って、日産リバイバルプラン開始前後で日産の人間が全員変わったわけではありません。それでも、日産は生まれ変わりました。それは、やはりリーダーの力が大きかったからです。

十数年間カルロス・ゴーンという人間を間近で見てきましたが、彼は本当に“成熟したリーダー”です。単に、仕事のうえでのディシジョンや戦略の構築、従業員とのコミュニケーションなどリーダーとして必要な基本的な素養だけでなく、人間的にも魅力がありますし、相手の立場に立って聴く力も持っています。

そのカルロス・ゴーンと仕事をしていくうちに、自分なりにマネジメントとは、リーダーとは、というところを学んできました。そうしているうちに、いつのまにか私もリーダーとしての役割を果たすようになっていたのです。この経験から、リーダーシップとは学ぶことで後天的に身につけることができるのではないかと考えるようになりました。

一般的に、カリスマリーダーというのは先天的であるとか、性格的なものによると言われています。そのことは否定しませんが、リーダーはカリスマリーダーだけではありません。町内会やPTAの役員のように、その役割を果たしているうちにリーダーになる「役割としてのリーダー」もいます。

ということは、後天的にでもリーダーシップは身につけられるということです。例えば、理科が得意とか、理科が好きとかはすべて後天的に身につけた知識なり、コンピテンシー(行動特性)です。なぜなら、生まれてすぐに理科が好きな子供などいるわけがないのですから。同じように、リーダーシップも後からいくらでも学べるものですし、身につけられるものなのです。

カルロス・ゴーンとの直接対話が次代のビジネスパーソンを目覚めさせる

私たち日本人は、小学生から大学生になるまでの教育課程でリーダーについて学んだことがありません。もちろん野口英世やナイチンゲールなど偉人の伝記から学びはしても、リーダーシップとは何かとか、どういうリーダーが優れているのかといったことについて、日本の戦後教育はまったく触れていません。その一方で、ビジネススクールでは盛んにリーダーシップのプログラムを提供しています。

もともと日産財団では理科教育を支援し、技術系人材の育成に努めてきました。そこに、以前より抱いていた「日本は技術で勝って事業で負ける」という想いが重なり、リーダーシップ教育をすることで人材育成の一気通貫になると考えたわけです。

特に、我々にはカルロス・ゴーンという稀有なビジネスリーダーが現役の経営者としています。日本の会社の社長となり、傾いた会社を復活させ、持続的な成長を遂げさせたカルロス・ゴーンと直接対話をする機会が提供できれば、刺激を与え、目覚めさせることができるのではないか。次代を担うビジネスリーダーを育てられるのではないか。そう思うようになりました。1人でも多くのビジネスパーソンに、私がカルロス・ゴーンと一緒に仕事をして得てきたものを少しでも体験してもらえれば、これほどすばらしいことはありません。

この講座を通じて、リーダーシップについて考えるということを5日間自主的に行って、そこで何らかのヒントを得てほしい。1人ひとりの社会生活のなかで、あるいは人生のなかで、最終日のカルロス・ゴーンとの対話が人生を大きく変えたというような、そういう機会になればと、そう願っています。

トップビジネススクールの“理論”と日産リバイバルプランに携わった現場の“実践”、どちらも体験できる

最後に「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」とはどのような研修なのか、簡単に紹介します。

私は、グローバルに通用するレジリエント・リーダー(優れた回復力を示す指導者)には、経営学者の“理論”と経営者の“実践”のどちらも必要だと考えています。小さな組織であれば経営者個人の経験だけで経営できるかもしれませんが、グローバル企業のような大規模な組織になると、個人の経験だけで対応できない事態も生じてきます。典型的な例が海外展開です。文化も習慣も異なる海外では、日本人の文化・習慣はまったく通用しません。そこに必要なのは、経営学者たちによって体系立てられた理論です。

そこで「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」では、そのどちらも学べるよう世界トップクラスのビジネススクールであるスイス・IMD、米ペンシルベニア大学ウォートン校、早稲田大学ビジネススクールがプログラムを監修、各ビジネススクールの教授陣が事例研究を中心に授業を進めるようにしました。

一方、実践面では、日産リバイバルプランや中国市場参入ケースなど、実際に改革を担った担当者が自身の経験を踏まえて語ることにしました。さらに、最終日のカルロス・ゴーンとの直接対話によって、1人ひとりの受講生が自らの固定概念を破り、新たな気づきを得られるでしょう。

目標は「私は、そして私の会社は、グローバルな事業環境下でどのようにレジリエント・リーダーシップを発揮していくことができるのか」という問いに対するひとつの答えを見つけることです。あなたはどんな答えを発見することができるでしょうか?

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公益財団法人 日産財団 理事長 志賀 俊之
日産自動車取締役・日産財団理事長・産業革新機構代表取締役会長CEO
大阪府立大学経済学部卒業。日産自動車株式会社入社。アジア大洋州事業本部アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長、企画室長アライアンス推進室長、常務執行役員、代表取締役最高執行責任者などを歴任。

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