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【常務理事メッセージ】“ゴーン学校”を普遍的な教育プログラムへ


カルロス・ゴーンがやってきたことは、一種の壮大な社会実験のようなものです。なぜなら、世界に類をみないアライアンスという形で、国籍も文化も全く異なる企業連合のトップとして絶妙のリーダーシップをとり続けてきたのですから。

変革を主導する次世代のリーダーを育成するプログラム「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」(以下、GRLP)は、カルロス・ゴーンの経営を本人が語り伝える“ゴーン学校”として立ち上がりました。しかし、それを「カルロス・ゴーンだからできた」という神話にしてしまっては、次のリーダーは生まれません。ですから、私たちは彼の経営論とその実践をリーダーシップ理論として体系化し、本当に価値のあるエグゼクティブリーダーシッププログラムにしていきたいと考え、コンテンツの開発と改善に取り組んできました。

そして、今、次なる課題が迫りつつあります。それは、カルロス・ゴーンも永遠ではないということです。いつか訪れる彼の引退に備えて、私たちはGRLPをより普遍的でサステナブル(持続可能)な教育プログラムとして進化させ続けなければなりません。今回は、この課題への挑戦についてお話いたします。

経営幹部を対象にしたリーダー教育が薄い日本企業

GRLP開始当初は志賀俊之理事長のトップ営業で多くの受講生に参加していただいていましたが、最近では人事施策にGRLPを組み込んでいただけることも増えてきています。

それぞれの企業のお話を伺っていくなかで浮かび上がってきたのが、役員・部長クラスのリーダー育成制度の薄さでした。政府の統計などを見ると、一般層や新入社員教育はどこの会社にもあります。しかし、中上級管理職向けには60~70%、経営幹部向けには30%程度しか教育プログラムを導入している会社はありません。欧米では、多くのビジネススクールが企業向けのエクゼクティブプログラムを設定しており、多くの企業が幹部のリーダーシップ教育として活用していますが、日本ではまだまだ一般的とは言えず、特にリーダーシップについては実戦的な教育プログラムとして確立されていないように思えます。

リーダーシップ教育では何を教えるのか?

一般的には、「ビジョン」「戦略」「実行」の3つをバランスよく持っているのが、よいリーダーだと考えられます。これらのリーダーシップ要素は個々にある程度理論化されています。例えば「実行」の要素では、シックスシグマのような問題解決手法やTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)などの教育プログラムがあります。また、「戦略」や「ビジョン」については、ビジネススクールや書籍で理論的な基礎とそれを応用したケースを学ぶことができます。しかし、自分が実際にリーダーとしてその場に立った時、それら3っつの力を上手く使ってリーダーシップを発揮できるわけではありません。それは、所属する企業の置かれている環境や状況がそれぞれに違うからです。

まして、日産自動車が経験した崖っぷちにおける舵取りやアライアンス戦略などは理論そのものがありませんし、体系化もされていません。このように将来のトップのための教育制度としてはリーダーシップを教えるということ自体が開発途上という状況なのです。

GRLPのプログラムは、アカデミックなMBAの理論だけでなく、志賀理事長や遠藤淳一氏(株式会社NMKV代表取締役社長兼最高経営責任者)など、実際にビジネスをオペレーションした当事者による体験の2本立てで構成されています。理論と当事者による体験とが連動しているのです。

その中で受講者は「さぁ、あなたはどうする?」「あなたのシチュエーションで、あなたが選択する戦略・方策はどれですか?」「あなたが示すビジョンはなんですか?」を繰り返し問われることになります。そうして「自分ならどうする」と自問していくことで、自分自身のリーダーシップとは何かを体得する。それがGRLPなのです。

GRLPはさらなる深化と進化へ

プログラムの魅力と価値をさらに強化するために、私たちは常に新しい企画、教育コンテンツ、ネットワークを開発し、次々に GRLPに投入しています。そして、教授陣も受講者も財団スタッフも一緒にGRLPのさらなる深化と進化を目指しています。

継続的な学びの場とトップ人脈を提供

GRLPでは、それまで交流したことのない異業種の受講生が協力しあったり、ディスカッションしたりします。GRLPに参加しなかったら得られなかったであろうこの繋がりを、一回こっきりの合宿研修で終わりにするのは大きな損失です。そこで、卒業生同士が研修後も継続的に交流し学び合う場としてアルムナイ(同窓会)を組織化することにしました。今後、アルムナイは年に一度、オフィシャルのイベントを開催していく予定です。

2017年7月18日のキックオフでは、池上重輔教授(早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジネススクール)に最新のリーダーシップ研究の動向をお話しいただき、また3人のOB・OGにGRLPで学んだことをビジネスにどう活かしているか、新たな挑戦しているかを語っていただきました。

時代の流れを捉えたコンテンツの提供

パートナーである米国ペンシルバニア大学ウォートン校とは、今人材育成についてアカデミアで話題になっている関心事は何か、リーダーの資質として着目されているのは何か、といったテーマを常に議論しています。その中で私が今回注目したのは倫理でした。ウォートン校には企業倫理に造詣が深い教授がおられ、その先生非常に面白い講義をされるというお話を伺ったのです。そこで、12月のウォートン校とのプログラムで、急遽テレビ会議を繋いで倫理の特別講義を行っていただきました。
訪問先のウォートン・スクールにて。GRLP運営側からは、原田(右端)のほか、太 田正孝先生(右から4番目)、池上重輔先生(同2番目)も参加。

GRLPのような研修プログラムは、いつも同じ内容でやっていては進化がありません。どういう講義にどのような要素が入っているかを分類し、整理すると同時に、今はこれが話題になっているから入れてみようとか、この切り口からのコンテンツを入れられないかなど、プログラムの内容に関するアップデートは継続的に行っています。

オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールとの提携

2017年度まで、提携するビジネススクールはウォートン校とスイスのIMDでした。2018年度は、欧米の主要ビジネススクールベンチマーキングに基づいて、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールがパートナーに加わります。

サイード・ビジネス・スクールは1996年に設立され、世界のトップビジネススクールの中では比較的新しいビジネススクールです。オックスフォード大学は800年の歴史を持つ由緒正しい大学で、39のカレッジから構成されています。最先端の科学、歴史、哲学、法律、医学、宗教等あらゆる学問をカバーしていますが、ビジネスを研究分野としたのは、1965年のオックスフォードマネジメント研究センターの設立が最初でした。

サイード・ビジネス・スクールではそのオックスフォード大学が持つさまざまなアカデミックな資産を利用し、30以上のプログラムを提供しています。オックスフォード大学の科学技術研究は最先端を走っていますから、科学技術がどのようにしてイノベーションを起こし、それをどう変革に導いていくのかなどについて、教材にできないかと期待しています。

GRLPの魅力を伝える

企業のトップや人事など、未来のトップを育てる立場にある人に、GRLPの魅力や価値を伝えていくことはGRLPがサステナブルとなるために重要です。

GRLPを立ち上げてから4年がたち、参加企業との継続的な関係が築かれ、また営業スタッフサイドの理解も深まったことにより、このプログラムの魅力をきちんと伝えられるようになってきました。例えば、GRLPでは1つの教材の中に変革マネジメント要素、グローバル戦略の要素などキーテーマが、縦軸横軸を織りなすように入っていますが、この関係をマトリックスで可視化した説明図を作りました。これにより教育目的を一目で理解していただき、きちんと伝えられるようになったことは大きな進歩です。

また、ありがたいことに、受講生として参加された方やオブザーバとして見学にいらした方が、GRLPで学んだことや企業にとってのメリットだけでなく、「こういう人に受けさせたい」と、人事や役員に熱く語ったというお話も伺っています。このように一緒になってリーダーシップ教育を考える企業も出てきました。

GRLPは日産財団の使命である

冒頭で、カルロス・ゴーンがやってきたことは壮大な社会実験であると申しました。もしかしたらアライアンスという形こそが、企業経営のメジャーなトレンドになるかもしれません。それを初めて成し遂げたカルロス・ゴーンが、そのオペレーションの裏で駆使していたリーダーシップや戦略、それがどのようなものだったのかを紐解き、理論化し、教育プログラムとして作り込むこと。それが日産の名を冠する財団だからこそできる役割です。

私たちは、日産財団だからこそ持ち得るこのGRLPという価値ある資産を、広く産業界に公開し、日本社会に貢献したいと考えています。そういう意味でGRLPは、公益財団法人としての日産財団の本質的な使命であると言えるでしょう。

原田宏昭
公益財団法人日産財団 常務理事
東北大学工学部応用化学科卒業後、日産自動車株式会社に入社。総合研究所にて自動車の先端材料研究に携わる。インド・チェンナイにある開発センターで研究/先行開発担当VP、総合研究所にて先端材料研究所長、研究企画部長を経て現職。

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