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『カルロス・ゴーンの経営論』を最大限に活かす読書法


2017年2月、日本経済新聞社から1冊の本が出版されました。タイトルは『カルロス・ゴーンの経営論』。その名の通り、この本にはあのカルロス・ゴーンの経営哲学が詰まっています。しかし、この本は単なる経営論ではありません。それはこの本が「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」(以下、GRLPと表記)」の最後のセッションである「カルロス・ゴーンCEOとの質疑」をベースに書かれたものだからです。つまり、未来の経営者と現役経営者が対話しているという画期的な本なのです。今回は、この本が誕生した経緯とその読書法について、早稲田大学大学院経営管理研究科教授でGRLPでも教鞭を執る池上重輔先生にお話を伺いました。

「カルロス・ゴーンとの対話を形に残したい」で始まった書籍化

書籍化の話は、3回目のGRLPが終わった頃に出てきました。反省会で、「ゴーンさんと受講生の対話がすごくいいよね。これを形に残したいね」という話が出たのです。もう一つ、それとはまったく別の流れから「営業するときにGRLPの内容が伝えにくい」という話がありました。

最初は、この2つの話がバラバラに議論されていたのですが、ある時「まとめて冊子にしたらいいのでは」と言う話がでました。これが、書籍化の始まりです。そこで、次回からのGRLPで書籍化を意識したコンテンツにすることになりました。

カルロス・ゴーンとの対話はGRLPの総仕上げ

ゴーンさんと受講生の対話「カルロス・ゴーンCEOとの質疑」は、最終日の午前中に行うことになっています。つまりGRLPの総仕上げというわけです。受講生たちは、その前の4日間で早稲田大学やペンシルバニア大学ウォートン校あるいはIMDの講義を受講し、そして受講生同士でいろいろな議論をしてきています。

彼らは、各セッションで何かを発見し、学びます。おそらく毎日「学んだなあ」という満足感を感じると同時に、どこか消化しきれない、心地悪さも感じているはずです。なぜなら、講義構成が各段階で疑問や違和感をあえて残すように設計されているからです。例えば、初日の講義で感じた気持ち悪さが2日目に解決されて、また次の気持ち悪さが出てくる。毎回、何か進歩していて満足はするけれども、あることが見えると次の疑問が出てきて新たな気持ち悪さを感じる・・・・、という階段を登っていく。そうやって、各自が自分なりの論点を発展させながら(同時にもやもやしたものを抱えながら)、最後にゴーンさんと志賀さんという2人のトップスピーカーと対話するという設計になっているのです。

さまざまな学びの中で、受講生たちはゴーンさんに聞きたいことがいろいろと出てきます。そうした文脈があるので、1時間、2時間の短い時間でも、ゴーンさんの話が刺さるのです。それは、各参加者が抱いていた気持ち悪さ(課題意識・論点)が明らかになったり、新たな気づきとなったりするからです。これこそが「カルロス・ゴーンCEOとの質疑」というセッションの狙いです。

ライブ感とクオリティの追求

書籍化にあたり、ライブだから得られるこの体験を文字でどう表すか。これが問題でした。ゴーンさんの話だけを端的にまとめるだけでは、このライブ感はとても表現できません。そこで、“対話”という元々のセッションスタイルをそのまま用いてQ&A形式としました。

また、書籍となれば、GRLPを受けていないビジネスパーソンのほうが圧倒的に多くなります。これは、GRLPを受講していなくてもわかるように内容を補足する必要があるということです。そこで補足を追加することになったのですが、問題は“何を”追加するかです。

第一に考えたのは、アカデミックな書物としてハイクオリティなものを作りたいということでした。これは全員の総意です。しかし、その“ハイクオリティ”が何を意味するかというのは少しずつ違っていました。そのとき、「せっかくああいうエデュケーションプログラムからきているのだから、アカデミックにもクオリティが担保されたものがいいよね」と、ゴーンさんが言ったのです。

その瞬間、方向性が決定しました。といっても、みんなも漠然とそういうイメージを持っていましたから、ゴーンさんが決めたというよりも、ゴーンさんの言葉でベクトルが揃ったという感じです。最終的には、アカデミックパートとして、各章の最後にリーダーシップ論やマネジメント論、経営戦略論などの学術的な解説を入れることになりました。

読みやすさという点では、Q&Aのパートはすごく読みやすくなっています。一方、アカデミックパートは一般的なビジネス書よりも少し硬い内容にしてあるので読みにくいかもしれません。実は、アカデミックパートは、もっとわかりやすく書くこともできました。しかし、あえてやや硬めにすることで、全体にアップダウンをつけています。

リーダーには高い“質問力”が求められる
『カルロス・ゴーンの経営論』を読んだ方からよく質問されるのが、Q&AのQの部分、質問の内容は誰が考えたのか、ということです。これは、受講生にオープンに投げかけて、毎回みなさんに考えてもらっています。ですから、毎回、質問は違います。質問は個別ではなく数名のグループで行います。

当日その場で考えて質問すると効果的かつ効率的に質問しにくいものです。なので、Q&Aセッションの質問は前の日に考えてもらうようにしています。各グループで3つくらい考えた質問を事前に講師が受け取り、そこから質問の順番を相談しています。

質疑応答というと最後のおまけのような気がしますが、実は質問を考えることそれ自体が重要な学びです。というのも、「質問力」もまたリーダーシップの一つの要因だからです。

質問は単に聞けばいいというものではありません。相手を説得する質問とか、本当に考えてもらう質問とか、行動を誘発するような質問というように、質問する相手や抽象度、聞き方などを使い分ける必要があります。このように、誰に何を質問するかというのはすごく重要なことなのです。

その質問力ですが、ゴーンさんはかなり高いと僕は思っています。答えが欲しいときにする質問と、自分が答えを持っていて相手を育成したり誘導したりするための質問というのは全然違うのですが、おそらくゴーンさんは使い分けているのではないでしょうか。ですから、ゴーンさんに対してどんな質問をするかというのを、GRLPの締めくくりとしているのです。

赤ペンと青ペンで、リーダーシップ自論のプロトタイプを作る

『カルロス・ゴーンの経営論』はいろいろな読み方ができます。僕が勧める読み方は、赤ペンと青ペンを持って、ゴーンさんに賛同する箇所には青ペンで、そうでない箇所には赤ペンで線を引き、なぜ自分はゴーンさんのこの意見に賛同なのか、なぜ賛同しないのかを考えるようにすることです。そうやって最後まで青と赤のラインを引いていくと、自然にその人のリーダーシップ自論のプロトタイプが完成します。でも、悩む箇所も出てくるかもしれません。そういうときには、アカデミックパートの理論に戻ります。

ここで、なぜゴーンさんの意見に賛同できるかできないかを考えるのか、と不思議に思うかもしれません。それは、リーダーシップにはいろいろなスタイルや価値観があるからです。確かにゴーンさんは非常に優れたリーダーです。でも、ゴーンさんが絶対に正解というわけではありません。ゴーンさんにはゴーンさんのスタイルがあります。そして、その会社における文脈があります。ですが、ゴーンさんに全部従う必要はありません。ですから、ぜひ青と赤のペンを用意してゴーンさんの意見に対する自分の意見を考えながら本書を読んでほしいのです。

このような読み方をお勧めするのは、本書を読むすべての人にリーダーを目指してほしいからです。リーダーになるには、自分のリーダーシップ論、リーダーとしての自分なりの価値観を持つ必要があります。そのためには、ベンチマークがあったほうがやりやすくなります。そして、ゴーンさんは非常に優れたベンチマークです。いろいろな要素における意思決定やコメントがクリアで、どの論点も明確です。そうした点が、グローバルリーダーとしていい意味で教科書的で参考になるでしょう。

ただし、本書がゴーンさんのゴールデンルールだと思ってコピーしようと思って読んではいけません。ゴーンさんは世界レベルで見ても強烈な存在であり、これまで成功を続けてきた人ですが、フルコピーをするのは危険です。イエスか、ノーか。なぜかという理由を、同時に考えることが大事なのです。

参加者として主体的に考えよう

一般論として、意思決定層に近い人ほど、目的そのものから考えていかなければなりません。それは、目的を探すこともリーダーの役割だからです。

経営論を書籍で学ぶときも同じです。提供する側がすべてをお膳立てして、自分は使うだけ、文字を目で追うだけ、と受け身になった瞬間に何も学べなくなります。それでは、知識が身につきません。少なくとも、この本の読者には、主体的に考えつつ疑問を生み出しながら、文章の奥に込められた意味を読み取ってほしいと思っています。


池上重輔
早稲田大学大学院経営管理研究科
早稲田大学ビジネススクール 教授

早稲田大学商学部卒業。一橋大学より博士号(経営学)を取得。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)、MARS JAPAN、ソフトバンクECホールディングス、ニッセイ・キャピタルを経て2016年より現職。国際ビジネス研究学会(JAIBS)国際委員会委員。

2015年より東洋インキSCホールディングス社外監査役。英国ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院MBA、英国国立シェフィールド大学 政治学部 大学院修士課程国際関係学修士、英国国立ケント大学 社会科学部 大学院修士課程国際関係学修士。

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