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【副理事長メッセージ】“レジリエント”は、日産自動車のストーリーから生まれたキーワード

公益財団法人 日産財団 副理事長 久村春芳(工学博士)
日産自動車フェロー・日産財団副理事長
東京工業大学大学院機械工学専攻課程修了後、日産自動車株式会社入社。総合研究所動力環境研究所所長、総合研究所バイスプレジデント、執行役員を経て現職。テクノロジーインテリジェンスを担当する。横浜国立大学にて工学博士を取得。

「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」(以下、GRLPと表記)では“レジリエント”(弾力的な、回復[復元]力のある)をキーワードにしていますが、最初からこのキーワードがあったわけではありません。日産自動車の過去のストーリー(経験)を振り返ってみて、そのすべてが“レジリエント”だったことを発見したことから、コア(中心的理念)に“レジリエント”を置き、そこから派生させるようにプログラムを構成することにしました。つまり、“レジリエント”は苦境から復活を遂げた日産自動車の姿勢そのものだったのです。

“レジリエントな経営人材”を育てたい

欧米に比べて日本には、企業の役員クラスを再教育できるためのビジネススクールがほとんどありません。もちろんビジネススクールが少ないという理由からだけではありませんが、やはり日本企業には経営人材が不足していますし、リーダーシップやマネジメントがとても弱いような気がします。特に、我々日産が経験してきたような“レジリエント”な経験を持つ経営人材は本当に少ない。この想いが、いつしか自分たちでビジネススクールを作って、次世代を担うリーダー育成をしたいという考えになっていきました。

そして、この想いは志賀俊之理事長とまったく同じでした。理事長もまた、“レジリエントな経営人材”を育成したいと思っていたのです。ところが、文系の理事長と理系の僕とでは、リーダーシップやマネジメントに対する概念が違います。例えば、僕が経営者にはシステムダイナミクス思考(経済や社会、自然環境などの複雑なフィードバックを持つシステムを解析し、望ましい変化を創り出すための方法論)や論理的思考力が必要だと説明しても、理事長にはまったく理解してもらえませんでした。しかし、何度か議論しているうちに直観的に分かったようで、あるとき理事長が「ゴーンさんだよね」と言いました。その後は、それまでの膠着が嘘のように一気に進みました。2011年の春から年末にかけてのことです。

基本構想が完成し、カルロス・ゴーンさんの承認も得て、理事長のフルサポートが受けられるようになりました。そうした中で2012年の春には、プログラムの実務に着手し始めたものの、具体的なものは何1つありません。ビジネススクールを立ち上げた経験などありませんし、知り合いもいません。しかし、ゴーンさんにビジネススクールのようなプログラムを作ると言ってしまった以上、やらないわけにはいきません。

そこで、早稲田大学の太田正孝教授に相談することにしました。太田教授に相談したのは、十数年前から早稲田大学の恩蔵直人教授と太田正孝教授とでサマースクールを開催していたというつながりがあったからです。太田教授にペンシルバニア大学ウォートン校との橋渡しをしていただき、最終的には太田教授がプログラム全体をコーディネートし、ウォートン校(関連記事「Wharton(ウォートン・スクール)とは?」)から招いた教授と、と早稲田大学の池上重輔教授(当時は准教授)が講義をするということになりました。

2011年の冬にゴーンさんの承認を得てからここまで約2年。ちょうどこの頃、オリジナルのケースメソッドが1本完成し、あとは既存のハーバードビジネススクールのケースメソッドを使うことにすれば、1年後くらいには開講できるというところまで辿りつきました。

2014年の冬に第1回GRLPを開催すると、ルノーと日産の関係性もあり、今度はヨーロッパのビジネススクールと手を組もうという話になりました。ヨーロッパならば、ダボス会議で“レジリエンス”というキーワードを出したIMD(関連記事「ビジネススクール「IMD」とは?」)ということで、太田教授と理事長の縁からIMDも参加。GRLPの講義は年に2回、9月と12月の2本立てという形に落ち着きました。

今では、ビジネス系のウォートン、理系のIMDと住み分けされ、それに応じてコンテンツや講師も配置しています。そのせいでしょうか。証券系や銀行系の生徒はウォートンコース、ものづくり系の生徒はIMDコースを選ぶ傾向があります。

2年かけたケースメソッド作り

前述したようにプログラム全体を構築するのも大変でしたが、ケースを作るのにも2年かかっています。これには2つの理由がありました。ひとつは、ケースの教え方として“ケースメソッド”を選択したことです。そして、もうひとつは日産自動車の承認がなかなか得られなかったことです。

1.   あえて正解を書かない“ケースメソッド”

ビジネススクールでよくある教え方は、企業のある事実を分析して正解を教える“ケーススタディ”というスタイルです。しかし、“ケースメソッド”では正解を教えません。“ケースメソッド”では、企業が直面したさまざまな場面を提示して、受講生それぞれに自分なりの答えを導かせます。例えばAという場面を見せて「あなたはどうしますか?」と考えさせます。次に、Bという場面を見せて「あなたはどうしますか?」とまた考えさせます。いくつもの疑問を重ね、各人に一歩一歩考えさせ、論議させて、さらに考え抜かせて、自分自身で腑に落とさせるのです。

このように受講生自身に考えさせるためには、ケースの中に正解を書くわけにはいきません。なぜなら、理系的に「これが必要」と正解を書いてしまうと、“ケースメソッド”ではなく“ケーススタディ”になってしまうからです。また、1つの考え方に偏らないよう、うまく疑問を持たせるよう、要素を散りばめる必要もあります。明らかに誰もが「これが正解」という結論が出てしまっては議論にならないからです。僕らはこれまでブレークダウン型で進めてきたので、ケースについ答えを書いてしまい、ケース監修者に何度もダメ出しされました。

最初の構想ではケースは10本ありましたが、結局完成したのは「日産リバイバルプランに於ける戦略的チャレンジ」と「日産の中国進出ケース」の2本だけ。この2つのケースは、早稲田・ウォートンコースで取り上げています。

2.   考え方の違いが生んだ承認への高い壁

オリジナルケースは日産自動車の事例をテーマにしたものですから、日産自動車の承認が必要です。その承認がなかなか通らなかったのも想定外でした。

これは、単純にケースメソッドに対する考え方の違いが原因です。上述したように、ケースメソッドに正解は書けません。そのことを日産自動車側に理解してもらうにはある程度の時間が必要だったのです。

このときは、プロのケースライターに何度もリライトをお願いし、日産自動車が納得し、ケースメソッドも成り立つぎりぎりのところを探しました。これが、ある意味一番の苦労と言えるでしょう。

結果的には、過剰なゴーン賛美になることもなく、かといってまったく訳の分からないケースでもなく、よく練られたケースになったと思っています。

GRLPのレベルを担保する受講生を集める

プログラムができても受講生が集まらなければ、GRLPは開講できません。しかも、GRLPの質を担保するためにも、役員候補やそれに準じるビジネスパーソンに参加してもらう必要があります。なぜなら、GRLPのプログラムは、受講生一人ひとりに考えさせるケースメソッドスタイルを採っているからです。

ただでさえマーケットが小さい日本の中で次世代リーダーに相応しいビジネスパーソンを集めなければなりません。どうやって受講生を集めようかと悩みましたが、志賀理事長のトップ営業、関係者の尽力によって、第1回目が2014年に開催されました。

ケースメソッドの追加で、日産の経験をさらに広めたい

構想から3年半。普通ならGRLP立ち上げ計画はつぶれています。実は、このプログラム、僕自身、本当に実現できると思っていませんでした。言ってしまったからにはやるしかないと、細い糸を辿っていったら偶然が重なり、なんとか実現できたというのが実感です。

今後は、まだ書き上げていないケースメソッドの追加や講師の見直しなどをして、これまで以上に日産自動車の経験を日本の社会に広めていければと思っています。そして、受講生に「受けてよかった」と言ってもらえるよういっそう努力を重ねていくつもりです。

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