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リーダーは軋轢を恐れずに全社最適戦略を追求する -日産リバイバルプランを影から支えたクロスファンクショナルチーム

1999年、日産自動車はどん底でした。1991年以降8年間で7度の赤字計上し、シェアも1991年以降継続的な凋落傾向で、巨額な有利子負債も抱えていました。その日産自動車を立て直したのが、ルノーからやってきたカルロス・ゴーンです。

カルロス・ゴーンは、最高執行責任者(COO)就任後初めて開かれたエグゼクティブ・コミッティで、同社を立て直すための計画を策定するための叩き台を、社内の部門を横断するクロスファンクショナルチーム(以下、CFT)に作成させるという方針を明らかにしました。

今回は、そのCFTの複数の案件に関わり、現在は株式会社NMKV代表取締役社長兼最高経営責任者としてリーダーシップを執る遠藤淳一氏に、CFTとはどのようなものか、遠藤氏の考えるリーダーシップのあり方などについてお伺いしました。

カルロス・ゴーンに直接英語で提案するクロスファンクショナルチーム

1999年7月、カルロス・ゴーンが日産リバイバルプランの叩き台をCFTに作成させるという方針を発表しました。その直後です。私はCFTのメンバーミーティングに呼ばれました。

CFTとは、部門を超えて最適な提案をするために結成された経営直結のタスクチームのことです。チームは、メンター的役割をするリーダー、実際にチームをリードするパイロット、その他合わせて10人程度のメンバーで構成されていて、全部で9つのチームがありました。リーダーは役員クラスがなりますが、初期のメンバーはだいたい30代後半~40代前半の部課長クラスから選ばれていました。

目的は、日産が取り組むべき主要な領域について、改革のアイデア出しを行いそれらの改革のオポチュニティを定量化し、提案することです。もっとも重要な点は、部門最適ではなく、会社全体にとって最適な提案をすることです。ゴーンからも、「日産のパフォーマンスのみが(CFTが)考えなくてはいけない要素であって、部門のパフォーマンスではない。それはマネージメントが見る」と言われました。また、CFTには実行責任を持たせず、そのかわり、これまでの仕事のやり方、過去のしがらみにとらわれることなく、新しい独創的なアイデアをグローバルに求められました。

それまでの日産自動車では、いかに現場にきちんと落としていけるかという現場の現実を前提とした具体論、つまり現状延長線上の提案、よく言えば実効性の高い提案、が優先されていました。しかし、カルロス・ゴーンからは、できそうもないアイデアを持ってきても決して責めたりはせず、ただし、それが臆病で可能なことのみに立脚した提案であれば必ず非難する、と言われていました。とにかくフルポテンシャルな提案を持ってこいということです。そのような挑戦的な提案を年に2回、パイロットはカルロス・ゴーンに直接、英語で説明しました。その準備のために、

チームでは最低でも週に1回、半日くらい会議することになります。国内だけではなく海外の各地域にもCFTのサブ組織があり、そこにもサブパイロットがいて、本社のパイロットはグローバルパイロットとして実際に現地に行って議論もします。これが専任ではなく、本業との兼任でしかもグローバルですから、パイロットは大忙しです。

私は会社の留学制度を利用して、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールで学んだのですが、この経験がCFTのパイロットにとても役立ちました。ウォートン・スクールのマーケティングやマネジメントの講義では(自分の知らない業界の)ケースを分析し、自分の意見をクラスで発言したり、グループを代表してプレゼンテーションして相手に納得してもらうということをします。これを英語でやるわけです。CFTでは自分が知らない領域まで入って行って提言を行うことも多く、こうした経験がまったくなかったとしたら、カルロス・ゴーンの前に立って特に経験もない領域の話を英語で説明しなければならないのは大変だったでしょう。「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」(以下、GRLP)でもウォートンの先生が同じスタイルの授業を行いますので、自然と自分の意見、ポジションを発信する機会に恵まれると思います。

議事録の書き方を変えれば、社員の意識と行動も変わる

日産自動車関係会社のオーテックジャパンで2年弱、三菱自動車と日産自動車の合弁会社のNMKVでは2011年の設立以来社長を務めていますが、社長になって初めて、カルロス・ゴーンが日産でやっていたことがいかにすごいことか、どのような意味があるのかを理解できるようになりました。2014年の第一回GRLPでゴーンが言った言葉に、『マネージメントというのは科学ではありません。マネージメントというのはクラフトマンシップ、職人芸なんです。そして職人芸というのは、実際的にやりながら、毎日仕事をしながら、努力をしながら、ベスト・プラクティスを共有することで学んでいくものなんです。』というものがあります。まさに、この職人芸をCFTを通じて間近に共有できたことで、41歳でいきなり500人を超える会社の社長になっても何とかやることができたと思います。

特に感銘を受け、参考にしたのは、カルロス・ゴーンは社員にきちんと自分の言葉で説明する、ということです。しかも、アンケートを取って、どこが理解できて、どこが理解できなかったのかを把握し、次に活かしていく。

以前の日産自動車では、社長は新年の挨拶でビデオに登場するくらいで、社員の前に出てくることはほとんどありませんでした。でも、カルロス・ゴーンは社員に直接、中期計画なり決算の結果なりを説明します。これで、社内の風通しがとてもよくなりました。

もう一つ、大きく変わったことがあります。それは議事録の書き方です。昔は会議で誰それさんが何を言ったというのが延々と書かれているだけの、いわば発言録のようなものでした。ですから、読んでも何が決まったのかがまったくわかりません。しかし、議事録に「決定事項がこうです。指示事項はこうです。指示事項は、誰がいつまでにやってください」というところまで書くようにしたことで、必要なアクションがすぐに取れるようになりました。もちろん、これはそもそも会議のチェア(仕切り)を(事務局まかせにせず)ゴーン自ら行い、誰が何をするか、何が決まったのかを会議の席上で明確にすることができているからこその話です。

ルノーと日産のアライアンスの会議でも、最後に議事録を確認する場があり、カルロス・ゴーンは自分で議事録の文面を「ここはこうだった」と指摘することが良くありました。そして、どちらか一方に偏ることのないよう、何が決まったのかを明確にします。ですから、会議に出席していない社員にも、クリアに、正しく情報を伝達することができる。それは、議事録からエッセンスを伝えるだけでよいからです。結局のところ、議事録の基本は、決定事項と指示事項、誰に指示を出して、いつまでにやるかを正確に書くということなのです。それは同時に会議の基本でもあります。

議事録については、日産自動車と三菱自動車との合同会議でも同じことをしています。こうした合同会議をNMKVはよく仕切るのですが、必ず最後に参加者全員で議事録を確認します。「こういうことでいいですよね。ここはこうですよね」と決まったことを確認し合うのです。そして、その場で配布します。そうするようになってから、スピード感も出てきました。

グローバルで見たときに何が大切なのか、常に全体最適で考える

ルノーとのアライアンス前の日産自動車は、日本人ばかりのとてもトラディショナルな環境でした。海外出張などで外国人との接触もありましたが、基本的にはトラディショナル・ジャパニーズカンパニー。ですから、「察すること」「現場主義」が求められ、「はじめに戦略ありき」ではなく「はじめに人ありき」のような会社で、声の大きい部長層がリーダーのようなものでした。しかし、それぞれの部長が「俺が親分」みたいな感じでは、会社全体の最適解は生まれませんし、実行できません。

例えば、日本の会社の中にはU字間コミュニケーションといって、部門のトップ同士が直接話せば終わることでも、部下同士に調整させ、その結果を報告させるといったことをするところがあります。こうしたことが積み重なると、全社最適よりも自分の部門を優先する部門最適になってしまいます。人材の育て方もそうです。私はずっとアフターセールス部門にいたのですが、当時人の育て方は部門ごとで、異動するとキャリア上不利になる可能性が高かったこともあったと思います。また、優秀な人財ほど同一部門内で純粋培養する傾向があり、全社的プロジェクトへの人財提供を拒んだり、本来出すべき人財を隠したりすることがありました。ある意味、これは人材の囲い込みとも言えるかもしれません。

CFTの狙いの一つに、潜在力の高い若い人や中間管理職にチャンスを与え、良い提案をトップに直接する機会を与えることで、若手を発掘するというものもありました。これはこうした過去の部門による人財囲い込みの弊害を打破するためのものでした。

結局2年間で3つのCFTのパイロットを経験したのですが(2つのCFTを同時にやった時期もあります)、それによって自分の意識も大きく変わりました。それまでは、自分の意見を挟める範囲以外は総じて上司の意見を是として、そもそも論・戦略論には立ち返らないで、本当の意味での戦略立案よりも、現場現実を前提とした具体論優先(戦術の積み上げ)しかしなかったのが、『何がグローバルで全社最適な戦略か?』についての本質的な問いかけを絶えず自問自答して、必要であれば上司に対しても反駁。それもCFTでは、理屈が通れば経営トップから直接全面的なサポートをもらえるという確信があったのが大きいと思います。

前述したように、第一期と第二期のCFTは部次長クラスだけではなく、多くの課長クラスがなっています。私もCFTのパイロットになったときは2年目の課長でした。つまり、CFTは課長クラスでもできるということです。GRLPに参加されている方々はそれと同等、もしくはそれ以上のポジションでご活躍されている方々ばかりですから、ポテンシャルとしてはCFTのようなことができるはずです。その前提で、最後にGRLPで学び取ってほしい3つのことをお伝えしたいと思います。

ひとつ目は、前提を取り払ってフラットに考えることです。これは、言われなければなかなかできることではありません。ぜひ、GRLPで気づきを持ちかえってください。

ふたつ目は日々のオペレーションの改善や効率化といったことを超えた、会社全体をグローバルに見た全体最適な戦略を考えること。ケースでは「何が全社最適な戦略か?」という本質的な問いかけを絶えず自問自答することは、まさしくリーダーシップの源泉の一つです。

最後は、自分の意見を言うということです。自分のポジションを明確にして、自分が意思決定者であったらどう判断するかを考えて発言できるようになることは重要です。授業では会社外の人と教授と他流試合をすることになりますので、自分がそこに飛び込んでいくことで授業が活性化すると良いですね。その結果濃いネットワークを広げることもできます。GRLPがそうした気づきになってくれればうれしいですね。

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